Beatles:日本モノ盤LPの謎(UKカッティングではない?)

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前回は、Sgt. Pepper'sモノ盤3枚を聞き比べた結果、日本盤がある意味一番良いのでは、という結論に達した。

その日本製モノ盤について、個人的に長年疑問に思っていることがある。

まず、3枚の音の違いの理由についての個人的推測から。

●推測
このアルバムはマスタリング終了後、「EQやコンプレッサーをかけずに、そのままカッティングすること」("Please Transfer Flat")とジェフ・エメリックから指示があったものの、実際にはカッティング段階で(エメリック立ち会いのもと)軽くEQ処理された("I did ask Harry to make a couple of minor EQ adjustments")(Here, There and Everywhere, p.189より)。

そしてこの時、もしもEQマスターが制作されていれば、その後のプレスでもそのテープを使って67年盤と同じ音でプレスできたわけだ――が、もちろんUKモノ盤再発は82年の1度のみで、しかも同じラッカー原盤が使われている。。。なので、この時(UK盤用に)EQマスターが作られたのかどうかについて、その後の再発盤の音からは判断できない。ただし、手元にあるドイツオリジナル盤(ただしステレオ盤)を聞く限り、独自のEQ処理をしている(というか、むしろ“していない”)のが分かる。となると、各国に送付されたステレオマスターは、カッティング時のEQが施されていないオリジナルマスターのコピーだと推測していいはず。

では、82年日本モノ盤はどうなのか?

●日本モノ盤はUKカッティングではない?
中古レコード店で82/86年モノ赤盤は、「この赤盤はUKカッティング」、あるいは、「UK原盤を使用している」、などと宣伝されて売られているのを目にすることが多々ある。が、私はそれはかなり怪しいのでは、と思っている。なぜなら、モノ盤なのにマトリックスにYEXというステレオ盤用の記号を使うという軽率なミスをしているし、しかも書体がUK盤のマトリックスの書体とまったく異なり、またどの盤にもH.T.M.のイニシャルがないからだ。

もしかして、マトリックス部分のみを削って変更しつつも(そんなことできるのか?)音溝部分はUK盤と同じなのではと思ったが、これもあり得ない。

なぜなら、本来、Sgt. Pepper'sは、曲と曲の間の送り溝が見えないよう、次の曲を連続してカッティングしてあるのだが、日本赤盤でははっきりと曲間の送り溝が見える(無音部分が追加されているわけではない)。つまり、UK盤と同一のラッカーではない。

●インナーグルーブの相違
また、B面ラストのインナーグルーブの入り方がUK盤と全く異なっている。日本赤盤ではA Day in the Lifeの音溝に連続して、つまりUK盤のような送り溝にではなく、本来の楽曲用の音溝に、インナーグルーブの音が入っている。

もしUKのEMIでカッティングしていたなら、つまり、EMIのハリー・T・モスがカッティングしていたなら(82年当時、彼は健在)、絶対にこんなカッティングはしないはず。なぜなら、インナーグルーブの存在意義とそれゆえのカッティングの仕様を彼なら熟知しているからだ。実際、オリジナル盤のカッティングの際は8、9回もB面のカッティングをやり直したそう(その割にB面のマトリックスが1なのはなぜなのか?)。

もちろん東芝EMIからそういう風にカッティングしてくれ、と指示があったのなら話は別だろうが、力関係から考えてそれはあり得ないだろう。

そこで個人的には、この赤盤は日本でカッティングされたと推測している。恐らく、UKからはモノマスターテープのコピーが送られてきたのだろう。そしてたまたま当時このアルバムのカッティングを担当した日本人エンジニアが、テープに入っている音をそのまま素直にカッティングしたのではないか。

●日本オリジナル・ステレオ盤の場合
ちなみにOP8163の日本オリジナル盤(ステレオ)にもインナーグルーブは収録されているが、これも一番ラベルよりの内周ではなく、A Day in the Lifeの終わりに収録されている。

●結論(勝ってな推測)
おそらく、82年モノ盤用としてUKからはEQマスターのダブではなく(そんなものはそもそも存在しない?)オリジナルマスターテープのダブが届いた、と。で、日本でそれをそのまま何もEQ処理を加えずにカッティングした、と。それゆえ、例えばShe's Leaving Homeが、あのような生音感のある音像になっているのではないか。ある意味、Abbey Road回収盤CDと同じような状況だな。

いずれにせよ、Sgt. Pepper'sのモノ盤に関しては、この日本モノ盤の音がオーディオフィル的な意味では最良だと、とりあえず“今のところは”そう言える。ロックとしてどちらが良いかと言われると、これは微妙。というか、そういうのは個人の好き嫌いの問題なのでなんとも言えない。塊としての迫力という意味ではUK盤の方が上だと個人的には思う。

ステレオ盤に関しては、バリエーションが多すぎるので、もうすこし研究してからだな~