Eagles: Hotel California Mobile Fidelity SACD vs. DCC Gold CD

 昨年(2023年)Mobile Fidelityから発売のEagles/Hotel California SACDだが、正直疑問符がつく仕上がり。端的に言えば、組合にけっこうな数の中古がはや出回っていることに、今回のリマスターへの評価が表れているのではないかと。

 (もちろんいつもの個人の感想ですが)結論から書くと、"Hotel California"が目当てなら今回のSACDは見送って問題なし。一聴して、んん、トレブリー、かなり、なぜ?という強い印象。トップエンドが強調され全体の音バランスが崩れている。レベル(音量)が低めのため、比較の際合わせようとすると、その分トップエンドも更に強調される。比してヴォーカルが痩せて聞こえる。その辺が気になっていらいら、なぜなぜ、楽しめない。いつもなら自然に口からこぼれでる"Welcome to the Hotel California🎶"もそれどころではない。w

 アンプのトーンコントロールでトレブルを15度ほど絞るとまあ聞ける感じにはなる。また2曲目"New Kid in Town"からはまあまあな感じになる。しかしこのアルバムを聴くのはやはり"Hotel California"あってのことだろうからこれはきつい。

 むしろSACD層よりもCD層の方が幾分だが聴きやすい。そこでためしに日本盤CD20P2盤を聞いてみたら、こちらのほうが高音域に関してはベター。トレブリーではない。がしかしヴォーカルが音場の奥に位置し遠い。抑制されていてのどが苦しそう。この盤もよくはない。

 DCC盤では上記の問題点はすべて解消する。DCCのタイトルはいつものことだが、聞いていてどきどきわくわくしてくる。ただし、今改めて聞くと、それなりにコンプはかかっているねこれは(調べたら、アルバムDR12、Trk01DR13 : Mofiどちらの層もDR13、Trk01DR15)。ヴォーカルが前面に出てきて、ホールエコーのようなリヴァーヴ感がドン・ヘンリーの歌う1ライン終わりごとにうっすらと響くのがわかる。高音のサスティーンがどの盤よりもきれいに伸びていく。印象を視覚的に言うならば、なめらかな金色に輝いている感じ。だがトレブリーではない。低音も出ているがブーミーではない。(強力にではないが)お薦めはできる盤。だがしかし、レアで高価。

(上Mofi cd layer、下DCC コンプレッションに関し聴覚印象と一致する)

dr.loudness-war.info

(Mofi: 5k~15k傾斜が直線的。17k~20kが比較的フラット。その先が崖)

(DCC: 5k~15kが緩やか。17kから比較的なだらかに右肩下がり。21.5kまで伸びる。
この対比も聴覚印象と一致)

●最強ヴァージョン

 ということで、現時点でデジタル版ベストヴァージョンは、Apple Musicハイレゾ版(24/192)となる。自宅にはmac>dac>amp>spで〜24/44.1〜24/192〜で聞けるお手軽環境しかないが、このヴァージョンにはバランス的にまったく不自然さがない。ハイレゾらしい密度の濃い音像で低域から高域まで伸びやか。マスタリングに作為的な部分(コンプレッションやEQなど)が感じられない。だからレベルを上げても音像バランスが崩れない、繰り返しのリスニングに耐えられ聴き疲れしない、しかもレアでも高価でもない、ということでヘヴィロテ。

 Apple Digital Masterのハイレゾロスレスであればどれでもマスタリング良好というわけではない。が、これはよい、のでは。

 

Apple Musicの功罪

 罪のほうは物理メディアが売れない、ミュージシャンのビジネスモデルが崩壊、という部分か。対して上記から導かれる功というか結論は、Apple Musicで満足がいくヴァージョンはわざわざ冒険して物理メディアを買わなくとも良い、ということになる(デジタルの話)。まあそれでも買って聞いてみたくなるのがサガではあるが、振り返ってみるとなんだかんだでSHMFの集合知的評価は大きく外れてはいないなー。

 ストリーミングに満足のいくハイレゾ版があるのに敢えて物理メディアとして手元に置いておきたいと思うリリースとはどんなものなのか。まあひとつにはSDE TYA blu-rayのように、アトモス含め複数ヴァージョンが1枚に収まっているアーカイヴ性が高いものかな。あるいは、やはりマスタリングが自分の趣向に適しているもの、になるか。

 

Eagles: The Long Run, US orig. vs JP orig. vinyl

 いまさらすぎる話題で恐縮。SHMFでも指摘されているが、The Long Run / Eaglesの日本盤はUSメタル原盤(fatherになるのかな)を使用しているということにいまさら気づき(オビにも書いてあるしw)、入手し、US盤と比較してみた。

forums.stevehoffman.tv

●見た目問題

 ご覧の通りなのだが、US盤がマット仕上げに対し日本盤はグロス仕様。ただ、これは日本初回盤の仕様なのか、80年1月プレス日本盤のジャケはUS盤そっくりのマット仕上げ。ジャケを輸入したのかと思い背文字を確認したが、普通にPrinted in Japanとあった。グロス仕様は初回だけ? マット仕上げの方が意図にかなっているとは思う(それがオリジナルなのだから言うまでもなかったw)。

 

●マトリクス

US: 5E-508 A II Mon STERLING TJ / 5E-508 B II Mon STERLING TJ

JP:  5E-508 A STERLING L-D-12 3 9-9 / 5E-508 B 2 L-D-10 3 STERLING TJ

*日本盤はさらに日本のレコード番号あり。

*日本盤B面は2に二重線がかかっている。訂正?

*これ以外にも例の英文がそれぞれにある。

*このUS盤はMonarchプレスかと。

 

●音問題

 方々で指摘されているように、日本盤のほうが音質面で上回っていると言っていいのでは。たとえが変だが、デジタルでいうところの16/44.1と24/96くらい違うように感じる。聴覚的に。そもそもだが(そしていつものことだが)日本盤のほうがフロアノイズのレベルが圧倒的に低い。奥行き感が深くより3D感あり、音の定義が明朝体ではなくゴシック体な感じ。比較するとだが、日本盤の臨場感は半端ない。

 わかりやすい違いが感じられるのが、"The Sad Cafe"のDavid Sanbornのアルトサックスの鳴り。日本盤はすごいね。サックスソロの最後のサスティーンが強烈に聞き手に迫る。Eaglesというバンドの終焉に手向けられた惜別、その最終楽章の最後、万感の思い(と勝手にこちらが感じているだけだが)が痛切に響く。US盤もデジタル版に比したら断然いいが、そこまで感情に訴えかけてくるほどではないな。

 しかし、原盤同じ(マスタリングはTJ)にしてこの違いか。Monarch…。往年の日本の工業製品の水準の高さは半端ないな(遠い目)。それが継続されていればThe Beatles in Mono(on vinyl, 2014)が英国カッティング日本プレスとかできたのに(いやそこは時代の流れとかだから別に技術水準が維持できなくなったとかいう話でもなく、いろいろ妄想すぎてさらに遠い目w)。

 してみると日本盤ではないが、The BeatlesUK盤同一マトでプレス年違いの音質差異もやはりそういうところから来ているのかなと(以前から思っていたが)ますます思えてくる。同一マトリクスであったとしても、メタル原盤からのプレーティング、Vinylの品質、プレスの質などで結果は聴覚的に気づくくらい変わると。うーむ。

 

●同じパターンのタイトル

 日本盤プレスに海外原盤を使用している他のタイトルというと(このページに辿りつくみなさんであれば既にご存知かと)、Led Zeppelin / Presence(オビに書いてある)、Neil Young / Tonight's the Nightあたりは必携? 一応上のSHMFページにまとめ投稿があり。

 

 

Chet Baker Sings (Tone Poet 180g Vinyl): Comparison and some thoughts

Arrived.

With no damage.

Relieved.

多くのChet Bakerファンにとってそうかもしれないように、個人的にもこのアルバムは音楽生活において固有の居場所を占めている1枚。しかしTone Poetシリーズで2020年に既発だったとは露知らず。忙しすぎる日々はよくない。以後、探してももちろんないし、あとは半分忘れていた。のだが、YouTubeチャネルのThe Pressing Mattersのレビュー動画からBlue Noteサイトでリストックしていることを確認。国内に入荷があるのかどうか待つまでもなく、無事入手。初回購入ということで10%ディスカウントだったかな。また、レコードとは関係ないが、この段ボール製のメーラーはかなり出来が良いとみた。これだけでも$3.97。

https://www.bagsunlimited.com/

 

youtu.be

●比較

何の何を比較するのかという自問自答。なにせ手元にあるのは1985年スペイン盤。

これを久しぶりに聞いて考えたのは、音質がどうあれその固有の盤に結びついている個人の記憶。このスペイン盤は1990年代初頭にイギリスを旅していた際、グラスゴーで買ったうちの1枚。バックパッカーだったので、レコードなんか買って無事に持って帰れるのかどうかすこし躊躇した気持ちや、その時のVirgin店頭の風景などが今でも瞬時に蘇る。

 

今回のTone Poetリプレス盤とそうした記憶には何の結びつきもなく、当然聞いていてそうした経験記憶が呼び出されることもない。逆に言うと、レコードにはそういう側面もあるということを改めて認識(レコードに限らずだが)。そういった点でも今回のTone Poet盤は意義深い。これがなければそこには気づかなかっただろうから。

しかしながら、"もの"としての記憶はさておき、なぜ旧盤に感じることを新盤で感じないのか、音の面から確認。

 

★スペイン盤: リヴァーヴが深い。これにつきるかな。音の鮮度という意味では感覚的にほとんど差異は感じない。リヴァーヴが深めなので、そこの鮮度比較までいかない、というところか。ダブマスターには違いないはずだが、特段の劣化は感じない。

 また、マスタリングがあくまでヴォーカルフォーカス。新盤は比較すればだがよりバランス重視というか、それぞれのパートがそれぞれよく鳴っている。

 なのでスペイン盤で再喚起される感情記憶経験記憶が新盤から得られないのは当然というかまあ必然。

 

★Tone Poet盤: ヴォーカルがよりドライ。ドライと言うのはカサカサな音ということではなくレス・リヴァーヴということ。The Beatles "Ask Me Why"のシングルとLPの違いみたいなもの。それよりも差異は大きいが。推測だが、スペイン盤のほうがコンプレッションは深め。それゆえにリヴァーヴが深めというよりも(Tone Poet盤を聞くと)マスタリング時にリヴァーヴかけたなという印象。ということで、新盤はまったく別の聴覚体験となる。いにしえの音を期待するとなんか違う感がでてくるが、別体験として過去とは切り離して聞くと、これはYouTube等での評価通り、音質もマスタリングもパッケージングも、非常にクオリティレベルの高い1枚と言える。満足度が高く、入手に要した手間暇が微塵も気にならない。Pricelessな1枚とはこういうことか。

 

ちなみに最終曲、"Look for the Silver Lining"の0'34"あたり、"And so the right thing to do is make it shine for you"の"make"のところ、テープグリッチがはっきりと感じられる。スペイン盤にも同じ箇所によく聞くとグリッチがあるが、新盤よりは微かで、言われなければ気づかないレベル。

 

スマホの画面操作で(決断さえできれば)ささっと入手できることの恩恵に大いに与っている昨今。ただ、そこにかつてのような経験記憶体験記憶が生じて結びつくこともあんまりないのかな。スマホ操作して入手したという体験記憶は当然あるんだろうが、そういうことではなく、あの頃あんな人生の段階であの場所にいてああいうことをしてあんな気持ちでいた、というつながりはない。あ、それでRSDとか始まったのか。ぐるぐる廻っているわけですね。レコードだけに。

 

(8/4 Dispatched, 8/12 Delivered)

Waltz for Debby too? Nothing above 21Khz

The cutter head used by Kevin Gray does not transmit audio information above 21Khz, according to posters in SHMF.

https://forums.stevehoffman.tv/threads/marvin-gaye-whats-going-on-50th-hard-limit-at-21-khz-on-vinyl-sourced-from-analog-tape.1142453/

 

 

上の報告はMarvin GayeのWhat's Going On 50th Anniversary vinyl editionに関するもの。その後、他のジャズタイトルに関しても報告が上がり、そちらでも21Khz以上はカットされていると。

 

また、Kevin Gray に問い合わせ、返事があり、それを要約した投稿もあり。その投稿の真偽はわからないが、Kevin曰く、21Khz以上はカットされているというか、transmit されないと。

 

これらの投稿内容は本当なのだろうか?

 

プラスの影響として、sssの音、シビランスが低減される。ただしジャズ系の場合は、歌唱がない場合が多いだろうから、結局それはプラスにはなっていないことになるはなるが。

 

それよりも気になるのは、重要な意味があると思われている高周波帯域がカットされているとしたら、では、CDには含まれない高周波帯域も含むことができるvinylの特性的優位性とやらを、Kevin Grayマスタリング盤においては、どう理解したら良いのか、ということ。

 

最新のOJC Waltz for Debbyがどこかデジタル感が漂うのはそのせいなのかなと、個人的に思うは思うなこれを知るとなおさら。

 

 

Bill Evans Trio: Waltz for Debby New OJC vs. APJ 009

●先に結論

The winner is APJ 009.

●その他諸々

方々から大きな期待を集める中登場したOJCの新シリーズ。初回のMiles/Workin'、Monk & Coltraneに続くリリースがEvansのWFD。その音質の印象についてはいつもの掲示板やYouTubeなどではほぼ一様に絶賛。

 

ということで期待感を持って聞いた第一印象だが、んー、テープおかしくないか? 明らかなドロップアウトがそこここにある。B面頭とか。とりあえず一聴した段階では、期待はずれ、がっかり感ありあり、といったところ。

 

でSH掲示板スレを見直してみると、WFDはテープダメージがかなりある、故にOneStepのリリース対象から外れた、などなどの情報履歴あり。うーむ、それは納得。例えば、B1のMy Romance では明らかにピアノがよたよたしている。つまりマスターテープの状態がそれほど良くはない、ということ。

 

また、ピアノに比してベースとドラムズ、特にハイハット音が前面にやや出過ぎ。トリオのバランス感がちょっとかな。これはKevin Grayのマスタリングの問題。

 

そして特にB面でピアノの音が濁る。こんなだったっけ?と思ってAP盤を聞いてみると、いや、そんなことはない。AP盤ではクリア。やはりマスターテープの劣化は事実かと。人気盤なので何度もリカットされその度にすり減って?しまったのかな。

 

というわけで、ネット上での絶賛評には素直には賛同しかねる。一方で上記の欠点をAP盤は全てクリア。故にAP盤が手元にある人はそちらで十分でしょう。それより古い元祖?OJC盤やオリジナル盤については、アウト・オヴ・マイ・リーチです。

 

で、次に出る予定のSunday atですが、こちらのマスターテープの状態はWFDに比して良好らしく、故に期待が持てます。

 

 

*ただし、盤をウェットクリーニングし、さらに3回くらい針を通したところ、だいぶ全体的な音の印象は改善された。もちろんドロップアウトや音揺れ等の欠点は消えないものの。

 

●発売元のCraftではデジタルダウンロード版を取り扱い中 だが日本でダウンロードできるのかはわからない。

https://craftrecordings.com/products/waltz-for-debby?variant=42343704658085

Ten Years After: Blu-ray SDE-Exclusive limited edition

https://www.thesdeshop.com/collections/new-in/products/a-space-in-time-limited-edition-sde-exclusive-blu-ray-audio

到着しました。いつオーダーしていたのか、記憶にないくらい前のことだが、無事に英国から到着。SDE shop限定。送料は£10.00。妥当かな。

 

梱包はシンプルながらアイテムはしっかりプロテクトされており、無傷。本体の他に、カードボードのアウタージャケットが同梱されていて嬉しい。早速合体させてみたところ、ぴったり収まる。さすが。

 

そのうち組合でも扱うようになるのかな? まあSDEがサイト限定を貫くならそれもよし。オンラインで買えるなら何も問題ない。

 

このBlu-rayサラウンドシリーズは、意外に頻繁にニューリリースがあり、最新リリースは初のリアルタイムニューリリースとなるBlurの The Balld of Darren。

 

で、引きはDolby Atmosと5.1chが収録されていること。かつ、今回のTen Years After / A Space in Timeには、Original Flat Transfer Stereo Mix (48/24)、1973 Quad Mix (48/24)、さらには2023 New Stereo Mixが収録されている。

 

ここまで徹底してくれるとやはりお買い得感もあったのか、初回オーダー分1000ユニットは瞬殺で売り切れ。追加分も同じく瞬殺。その後1カ月半以上待ったかな、再追加オーダー分でやっと自分のオーダーが通った。

 

これから音を聞いてみるが、オリジナルステレオミックスはAF盤と比較してみたい。まあresolution は違うわけだが。

 

https://superdeluxeedition.com

The Yellow Monkey on vinyl: Sicks and Punch Drunkard

まあ多分イエモンのレコ盤の音質について何か感想というか、レビュー的なことを書いている人なんて皆無だと思われるわけだが、とりあえず。

 

なんというかなぁ…、遠い記憶の中にあるイエモン、あんまり掘り起こしたくないくらい昔の記憶だな。で、CDのマスタリングはTed Jensenだったわけで、それはどんなもんだったかというと、まぁ聞いてみての通りなわけで、言ってしまうとコンプかけてぐしゃっと潰してペラペラざらざらな聴感、ただしだからといって密度感が完全に消失しているわけではないという、まそんなあの時代にあった音作りというかマスタリングの方向だったかなという。そんな聴覚的記憶なわけです。それらのCDは手放してはいないがすぐには出てこないし、探す気もない、というくらいな位置付け。自分の中で。そんな音の記憶だから当然ながらというかやはりこのvinyl editionをそもそも買う意味があるのかどうかというところから始まって、かなり躊躇。ましかし、”淡い心だって言ってたよ”はアナログで所有しておいてもいいかな、という1%くらいの購買意欲に従って、Sicksをゲット。

 

いやー、なんだこれは。一音目から逆の意味で度肝抜かれましたよ。あれだ、吉井さんの39108、あのVinylを初めて聴いた時の驚き、それの10倍くらいな感じ。レスコンプ、フルレンジのこのマスタリング、素晴らしいの一言。今回マスタリングは、Warner Music MasteringのKatsutoshi Kitamura氏。(発売はSony MusicだがマスタリングはWarner?)

 

今回2枚組仕様なわけだが、その時点で音質にもう少しプラスの期待が持てる可能性があったことに気づいておいてしかるべきだった。曲数と曲長からしてAB2面ではキツすぎる長さだが、4面となるとそれが真逆。片面あたり11〜15分程度の収録時間という夢の世界。そして無駄に45回転にしなかったのもあくまで正しい。ホフマン掲示板含め誰も指摘していないことだ(と思う)が、以前も書いたが、45回転の場合、最外周の1曲目と最内周の曲の音質の違いが激しすぎる。いや最内周の音質もいいといえばいいのだが、最外周からの劣化度合いの落ち込みが大きいため、聴いていて、その変化が気になるというか気障りに感じる。その劣化速度・度合いが気になって、没入感が阻害される。その点今回は33.3333回転なので、その劣化具合が聴覚上あくまで緩やかというか、ほぼ気にならない。これら条件が全てプラスの方向に作用し、全体として完全に成功している。それがこの盤。

 

この流れで当然の如く次作、Punch Drunkardもゲット。

 

この2作、1曲ごとの聴きどころをここで挙げていっても意味がないだろうから、最小限のことを書いておく。ひとつ、いろいろな意味で頂点はPunch Drunkardの”Burn”だったのだなと個人的に得心。

 

この曲が収録されている面は3曲のみの構成で(そのうち1曲は”Sea”)、収録時間は11分程度。だからカッティングに余裕ありまくり。溝の間隔も好きなだけ取れるから音量が十分に確保できるし、ということは周波数帯ごとの大きな妥協も強いられない。そして過大なコンプはかけていない。だから音が伸び伸び、深々、きらきら、生生。高音の伸び、低音の深みが素晴らしい。音の分離が素晴らしいので、各パートの楽器の音、吉井さんのヴォイシング、すべてのクラリティが(CD比で)圧倒的に向上。おかげで骨太なハードロック感が全開。CDよりもロックバンド感が強烈に感じられる。

 

そしてこの2枚組LPを聴くと、そんなロックバンドとしての音の到達点が”Burn”だったのだとはっきりわかる。歌詞、曲、編曲、演奏、歌唱、アレンジ、ここがひとつの完成形。そして今回のD面最後、狂気じみた”Love Love Show”を聴くと、その到達点、頂点、の後の行き場を失って過剰放出状態となった(バンドとしての)アドレナリンがここに無法地帯におけるが如く飛散しているのだとわかる。だからあそこで一度、完結というか完成というか、到達してしまった、そこからの難しさが次回作以降、ということだったんだな...、かな? と思う。個人的にもとりあえず「8」は聴いたものの、その先は記憶にない。

 

”Love Love Show”について言うと、より耳馴染んでいるシングルヴァージョンをそのまま入れてあったなら、今それをアナログで聴けたのにな、と思う部分も少しある。可能性はかなり低いだろうが、Mother of ... がアナログ盤で発売されたらね。そうしたら”Love Love Show”のみならず、名曲中の名曲、”Nai”もアナログで聴けるということになる。