Arrived.
With no damage.
Relieved.
〜
多くのChet Bakerファンにとってそうかもしれないように、個人的にもこのアルバムは音楽生活において固有の居場所を占めている1枚。しかしTone Poetシリーズで2020年に既発だったとは露知らず。忙しすぎる日々はよくない。以後、探してももちろんないし、あとは半分忘れていた。のだが、YouTubeチャネルのThe Pressing Mattersのレビュー動画からBlue Noteサイトでリストックしていることを確認。国内に入荷があるのかどうか待つまでもなく、無事入手。初回購入ということで10%ディスカウントだったかな。また、レコードとは関係ないが、この段ボール製のメーラーはかなり出来が良いとみた。これだけでも$3.97。
https://www.bagsunlimited.com/
●比較
何の何を比較するのかという自問自答。なにせ手元にあるのは1985年スペイン盤。
これを久しぶりに聞いて考えたのは、音質がどうあれその固有の盤に結びついている個人の記憶。このスペイン盤は1990年代初頭にイギリスを旅していた際、グラスゴーで買ったうちの1枚。バックパッカーだったので、レコードなんか買って無事に持って帰れるのかどうかすこし躊躇した気持ちや、その時のVirgin店頭の風景などが今でも瞬時に蘇る。
今回のTone Poetリプレス盤とそうした記憶には何の結びつきもなく、当然聞いていてそうした経験記憶が呼び出されることもない。逆に言うと、レコードにはそういう側面もあるということを改めて認識(レコードに限らずだが)。そういった点でも今回のTone Poet盤は意義深い。これがなければそこには気づかなかっただろうから。
しかしながら、"もの"としての記憶はさておき、なぜ旧盤に感じることを新盤で感じないのか、音の面から確認。
★スペイン盤: リヴァーヴが深い。これにつきるかな。音の鮮度という意味では感覚的にほとんど差異は感じない。リヴァーヴが深めなので、そこの鮮度比較までいかない、というところか。ダブマスターには違いないはずだが、特段の劣化は感じない。
また、マスタリングがあくまでヴォーカルフォーカス。新盤は比較すればだがよりバランス重視というか、それぞれのパートがそれぞれよく鳴っている。
なのでスペイン盤で再喚起される感情記憶経験記憶が新盤から得られないのは当然というかまあ必然。
★Tone Poet盤: ヴォーカルがよりドライ。ドライと言うのはカサカサな音ということではなくレス・リヴァーヴということ。The Beatles "Ask Me Why"のシングルとLPの違いみたいなもの。それよりも差異は大きいが。推測だが、スペイン盤のほうがコンプレッションは深め。それゆえにリヴァーヴが深めというよりも(Tone Poet盤を聞くと)マスタリング時にリヴァーヴかけたなという印象。ということで、新盤はまったく別の聴覚体験となる。いにしえの音を期待するとなんか違う感がでてくるが、別体験として過去とは切り離して聞くと、これはYouTube等での評価通り、音質もマスタリングもパッケージングも、非常にクオリティレベルの高い1枚と言える。満足度が高く、入手に要した手間暇が微塵も気にならない。Pricelessな1枚とはこういうことか。
ちなみに最終曲、"Look for the Silver Lining"の0'34"あたり、"And so the right thing to do is make it shine for you"の"make"のところ、テープグリッチがはっきりと感じられる。スペイン盤にも同じ箇所によく聞くとグリッチがあるが、新盤よりは微かで、言われなければ気づかないレベル。
スマホの画面操作で(決断さえできれば)ささっと入手できることの恩恵に大いに与っている昨今。ただ、そこにかつてのような経験記憶体験記憶が生じて結びつくこともあんまりないのかな。スマホ操作して入手したという体験記憶は当然あるんだろうが、そういうことではなく、あの頃あんな人生の段階であの場所にいてああいうことをしてあんな気持ちでいた、というつながりはない。あ、それでRSDとか始まったのか。ぐるぐる廻っているわけですね。レコードだけに。
(8/4 Dispatched, 8/12 Delivered)