The Beatles: US digital vinyl Abbey Road C1 0777 7 464461 7再訪

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Various pressings of Abbey Road (left: AAAA UK, right: AADA US and 2012 EU)

 

掲示板でThe Beaveさんがまた言っている。数年前にも言っていた。「digital vinylのAbbey Road US pressingは最高にいい」と。

forums.stevehoffman.tv

その盤は時期的にはThe Beatlesのカタログが1987年に初CD化された後、最終アナログ盤ですという話で登場したような記憶。

(discogによればそれは1988年。その時はPurple Capitolレーベル。そして上の写真右は1995年Appleレーベル盤。"Wally", i.e. Wallace Edward Traugott マスタリングのSRC, i.e. Specialty Records Corporation プレス)

音源はデジタル(だがSgtは違うっぽい)。

 

と思って、自分のブログを検索したら9年前に同じネタで書いていた。w

efil2159.hatenablog.com

それにしても2012年のリマスター盤LP発売から早10年ですよ。信じられん。CDの方は2009年だから早13年…。うーん、そうか、そうなのか。時は流れる。音楽への自分の向きあい方も変わったような気がする今日この頃、The Beaveさんの投稿をきっかけに再訪しました。ここで比較するのはデジタルソース盤同士、C1ARと2012AR。

 

結論から書くと、このC1盤、確かによい。2012よりよい。(波形比較ができないので=needledropする気力がないので、ここから先はただの個人の感想。)

 

そもそもAbbey Roadアナログ盤は鬼門というかなー、UK2/1盤がオリジナルかつ基本なんだろうけれどもひたすらnoisy。もしかしてプレスされたすべての盤がそうなのではと思うくらいひたすら。掲示板の人々もclean copyを探すのをあきらめている。一方で最近のAPやMoFiの企業努力によってvinylの品質は確実に向上しており、購買層の音質の判断基準のバーが上がるのに追随して、QRPやRTI以外のpressing plantsの製品も相当によくなった。一方で退場を強いられるplantもある。まさにThe Beatles 2012 remasterd vinylの製造で大失態をさらしたこちらなど。

www.latimes.com

さて、そうした状況の今、オリジナルとはいえフロアノイズだらけの盤を心地よく聞けるか、受け入れられるかという問題が浮上(個人の感想ですよ)。まずはそこ。オリジナル盤の持つ価値は消えない。しかし、純粋にリスニング体験として余計なことを考えずに存分に浸れるか、楽しめるかという、そこです。リスニング体験向上のため再生環境を整えることについて、それなりに考えたり調べたり投資したりしていれば尚更。そこに再発盤の大きな意義のひとつがあるんだろうなと(ブルーノートのAAA周年記念盤しかり)。まー、そんなことは今までほとんど自覚していなかったわけですが、今回このC1盤を聴いて、そこの価値が自分の中で確立済みなことに気付かされた。

 

で、C1や2012ではノイズ問題が解決。音源がデジタルだからというよりも、これは技術や機材の進歩やVinyl素材の品質改善の話なのかな。あとはグルーヴダメージがないこと。

 

ではC1に比して2012の何が問題か。いや、何も問題はない。いい音。なんだけれど、人間がやっていることってその人の意図がどうしても滲み出てくるというか透けてくるというか伝わってくるのかな。当人の意図がどんなものであれ。2012リマスター盤にはrestoration(修復、復元)作業が多分に含まれていたわけで、そこからは、失ってはいけない文化的遺産の保存、preservation作業の結果みたいなものが伝わってくる(10年経った今の個人の感想です)。clinicalでanalytical。曲を構成するそれぞれのトラックの音の分離は素晴らしく音質にも注意が行き届いている、が、それらが融合したひとつの曲としてのアナログ的訴求力(つまりリスナーのemotionへの働きかけ)がいまひとつに感じられてならない。マスタリング時のコンプレッション量の違いか(マスタリングエンジニアのSean Mageeさんは2012年の発売時に「コンプはごく軽くしかかけていない」と述べている。が、掲示板の人々は「ごく軽くと言えるレベルではない」との見解)。そしてその印象はヘッドフォンで聞くと更に拡大される。聞き終わった後にデジタルデータの0と1のパターンの残像のようなイメージが残りすらする(刷り込み効果恐るべし)。

 

10代の頃に聞いていたのはこれじゃない感。相当に手を入れたリマスター盤だからそれは当然ではあるが、つまるところはそれなのかもしれない(一方のC1は、要はA→D→Aとコンバートしたに過ぎず、根本的な音像に変化はない)。

 

となると、多分、09リマスター盤から入ったリスナーにとってはそもそも話が違うんだろうし(09リマスター=the Beatles)、もちろんそれでいい。一方で、約10年ぶりにコレクションを見直してみた手元には2/1, 2/2U, 3U/1盤ほかがあり、己の収集への執着に笑ってしまう。ただ、10代の頃の純粋な音楽体験のその先、その奥を探求していくプロセスは趣味的悦楽の極地だし、アイデンティティ形成の源泉への遡行という必然的行為でもあるだろう。今C1盤を気楽に楽しめているのは、そうした心的トンネルを経た先に抜け出たからか(と言うと大仰だが)。

 

最後に、9年前の自分の感想にあった「C1Sgtは音が薄い」だが、再生環境が変わった今聴くとそうではなく、ただしトップエンドが強調されている、ように聞こえる(特にA面で顕著)。書いた通り、C1SgtのスタンパーはUSオリジナル盤(もしくはそこから遠くない盤)の再使用らしく、だとすると当然これはAAAであり、オリジナル盤のミントコピーとも言える(しかも品質は上)。もちろんB面最終曲後にinner grooveは入っていない。Deadwaxに"Wally"のサインはあるが(書き足しただけか)しかし、音の特徴はトップからボトムまで素晴らしいバランスの他のtitleとは明らかに異なる。