Kate Bush: Hounds of Love on AF/EMI100 vinyl

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(Audio Fidelity and EMI 100 editions of Hounds of Love vinyl)

今はなきAudio FidelityがKate BushのHOL(LP+10inch vinyl)とThe Sensual Worldを発売したのは2010年。時が経つのは早い。そのAF HOLだが、2度プレスされている。初回はマーブル柄のカラー盤、2回目は黒盤。なぜ2回プレスしたのか。初回盤はノイズがひどかった。盤面のサーフェスノイズではなく(それもあるにはあるが)、プチプチノイズが周期的に入る難攻盤だった。マーブル盤にしたのが仇になったのかとも思う。その頃はカラー盤の品質が安定していなかった?ような雰囲気があった。一方でマスタリングを担当した御大によれば、ダイナミックレンジを保持すると最小音をプリザーブするためにカッティングレベルが低くなり、そうすると盤面のサーフェスノイズが目立つようになるのでそこはどちらを取るかの判断になる、といった旨の投稿をしている。そんな顛末もあり、黒盤でリプレスされたのだと個人的に考えている。なので、AF盤でノイズが少なめのものを狙うなら黒盤ということになる。直接は未確認だが、AF黒盤はジャケ裏下の限定ナンバー(のステッカー)がない。ということでここではマーブル盤。

 

AF盤が苦しいとなると、次はオリジナル盤となるのだろうが、掲示板によればオリジナル盤は音が薄く、それよりもEMI100盤(1997)がお勧め。EMI100はシリーズの1〜20がデジタルマスターで、以降がアナログマスター。シリーズ34のHOLはアナログマスター。これはジャケのステッカーにも記載がある。2018リマスター盤はデジタルマスターだそうなので除外(The Big Skyがシングルバージョンに差し替え)。ということで、アナログマスター同士のAFとEMI100の比較となる。

 

結論から言うと、AFはミッドレンジ、EMI100はワイドレンジ。

 

聞いていると、これが80年代発表のアルバムだということを思い出させられる。シンセサウンド全盛(?)のサウンド。SpringsteenのBorn in the U.S.A.の音がよぎる。その時代の流れの中で構築された音だということ。AFはそのきらきらサウンドをよりオーディオファイル寄りの普遍的なサウンドにすることを意図したのか。そんな印象の仕上がり。実際、B面The Nineth Waveではその方針が成功しているようにも思える。ただし、そのB面がノイズ過多なのが苦しい。苦しすぎる。

 

だがEMI100を聞いてみてわかったのは、このアルバムは(vinylなら)ノイズから逃れられないということ。DRを広く取るということは先述の通りそういうことにもなり得る。そう理解するとAFのノイズが多少許容できる気になるから人間とは不思議、勝手。しかしEMI100はきらきらサウンドの高音域の分離感を十分感じさせつつ、低音域も切り捨てていない。そのマスタリング指針が最もポジティブに表れているのが先述の"The Big Sky"。曲終盤の雷鳴とともに押し寄せる雪崩のようなアンサンブルのダイナミズムに息を呑む。AFでは、ここがミッドレンジに寄っていて、鳴り響くというよりは、模糊とした塊のような音像。むしろダイナミズムが封じ込められているように感じる。

 

ノイズに関して言えば、EMI100の方がだいぶ少なめ。それもあってこちらの方がcrankable。アナログカッティング(と信じる)を存分に味わうことができる。たしかにEMI100はミッドレンジがやせていると感じる部分はある。全体的に。それを踏まえてもなお、A面はEMI100で満足できる。一方でB面はAFに微妙に、ほんの少しだが分があるかな。が、ノイズを含めた聴きやすさなどを考慮するとEMI100でいいかなとも。

 

なんというか、やはりまず時代の音があって、その上でそこを脱して再定義するならthe Beatlesその他のように、リミックスするという方向で考えた方がいいのかな。個人的にそうしたリミックスにあまり興味が湧いてはこないのだが(Sgt. Pepper'sの惨憺たる結果を踏まえ。全く興味がないわけでもなく、聞いてはみたい。が2〜3回聞いて、ああなるほど、と思えれば十分なレベル)。

 

デジタル版となると、2018リマスターは評判がいいようなので、それのハイレゾ(たしか44/24)は一度聞いてみたい。