Maurizio Pollini / Beethoven, Piano Sonatas No. 30-32 : POCG vs. MQA CD vs. Esoteric SACD(波形比較とインプレッション)

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(MQA盤はベートーヴェンさんのイラストが反転しているんじゃないかい?)

 

Esoteric SACDの評価について、検索してもなかなか出会えないので、畏れ多いことですが、自分の印象をまずは書くことにしました。

 

【注意】これはどちらかと言うとEsoteric盤はどうなんだ?という方向性の独り言です。Esoteric SACDを存分に楽しまれている方はこれ以上この書き込みを読まないことを強く推奨します。

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まあもはや古い話です。EsotericのSACDシリーズが好評ということだったので何枚か試しに聞いてみたのですよ。しかし…、うーん、いや、あまり好みではなかった。

 

その当時、何が好みにあわなかったかというと、んー、ホフマン掲示板的に言うと「うるさい」です。Esoteric盤は。音楽的なフロウが感じられない。感覚的に言うと、ガンガンガン、という感じ。鍵盤を強打するたったの一音で頭蓋骨に痛みが走るような感覚。強弱なのか高低なのか、とにかく全体のバランスがちょっと自分の耳には違和感あり(バランスが崩れている印象)。一音一音の瞬間的な明確さは確かに優れているんだけれども、曲として音楽的かという点で自分の耳には合わなかった。

 

で、あーたぶん自分の再生システムが(特に高音域の再生において)むしろ追いついていないんだろうなと思い、放っておいたわけですが、近頃(まあ昨年のショパンコンクール関連報道&番組の影響も多少はありつつ)人生最大のマイ・ピアノブーム?が到来なのかな? ポリーニおじさんのこの盤をもう一度きいているわけです。その間、オーディオ再生システムに関する理解も深まり、デジタル対応も進み、それなりの音が出ているかなと自分で思えるようになり、同時にクラシカル音楽向け脳回路が鍛えられてアプリシエーションの奥行きも深まってきたところで再訪してみたと。まあそういう感じですが、うーん、結論はあまり変わらなかったです。解像度の高い音像が確かにステレオピクチャーの前面に浮かんではいる、のだが、その背後に実体がない、というかな。

 

で言っているだけでもしょうがないのでAudacityに取り込んで比較しました。当然、Esoteric盤はCD層です。トラック1(Op.109)だけです。

 

 

本稿のスタート地点はPOCG-2948。ただのCD。MQAとEsoteric SACD(CD層)もリップ。リップしたMQAデータは展開なし。するとこうなった。

             ↓

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POCG

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MQA

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Esoteric

 

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POCG

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MQA

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Esoteric

●結果

・音圧がPOCG<MQA<Esotericとあがっていく。

・400-600Hz帯域のふたこぶの山の形状が3つとも大きく異なる。POCGではふたこぶがほぼ同じ音圧レベル。MQAで600Hz周辺がやや下がり、Esotericでは400Hz周辺の方が明らかに山が高い。POCG<MQA<Esotericの順で600Hz周辺が減衰していく。

・1000Hz周辺の音圧はMQA≒Esoteric。しかし50Hz周辺を見るとよくわかるが、~50HzでMQAが-36dBを大きく下回るのに対し、Esotericはほぼ-36dB。

・4000Hz周辺の音圧はほぼ同じだが、よく見ると微妙にピークがMQAの方が上。

・8000Hz以上の情報量がPOCG<MQA<Esotericと増える。わずかだが。

 

●私的結論

全体の音圧が大きめになっているのはボリュームで対応すればいいので無問題なのですが、-1000Hzまでの持ち上げ方向の音圧操作と8000Hz以上のエクステンション、ですかね。これらがEsoteric盤はPOCGやMQAと大きく異なる。そのマスタリング時のEQチョイスが、冒頭に書いたようなバランスが今ひとつで曲として聞くと耳にきつい、聞きづらい、という印象になっているのかなと。

 

それとこれはマスタリングには関係がないと言えばないことですけれども、Esoteric盤のマスターの出自がいまひとつ、というよりまったく不明なことが不満かな。「最良のマスターを厳選し」、のような説明書きがあったと思うが、ホフマン的に言うと、マスターテープは字面の如く、世界に一つしかないわけです。唯一のマスター以外はすべてダブです。だから「マスター」テープを使用するのであれば、厳選するということ作業自体が発生しない。真のマスターテープを特定し、それを貸し出してもらうのが「作業」。そしてそれは非常な困難を伴う。普通に考えると、たとえば今作ならDeutsche Grammophoneがマスターテープを管理しているんじゃないのかな。で、それを空輸させてくれるとは(the Beatlesレベルで考えれば)あり得ないので、現地でDSDトランスファーし、そのデータを使ってマスタリングするという流れか。で、今はどうか知らないけれど、昔はDSDデータのままEQ処理はできなくてPCM変換してEQし、またDSDに戻せばできると日本の大手レコード会社の某エンジニアの人から教えてもらった。今もってそうだとするならば、むしろ現地でPCMトランスファーし、それに日本でEQを加え、DSD変換、なのかな。

 

あるいはプロダクションマスターをどれにするのか、という話だとすると、そもそも、え、ということはもしかしてマスターテープを使っていないの?という話になる。などなどのことを考えるにつけ、Esotericのマスタリングルームではどういう作業を実際にはやっているのかなと思う今日この頃であるのよ。

 

ただ、ではMQA盤CD再生がこの3枚中ベストという結論かというとそういうわけでもなく。言うまでもなく、MQAを展開しハイレゾで聴くのと、展開せず(できず)に14bitでしたっけ? CDというか実際ロッシーなのかあれですが、で聴くのとでは違うわけで。

 

今日の結論としては、まあ、MQAをリップし、PCをトランスポートとしてDAC経由で再生、がとりあえずのベターかなと感じます。一言で言うと、MQA盤はPOCGよりも音が豊潤。バランスがおかしいという感じもしない。あとマスターの出自が明記されているのも精神的にプラス(*2010年ドイツでオリジナルマスターテープからDSDトランスファー)。MQA展開再生はもう少し時間をかけて聞いておきたいので、そこは評価保留。

 

*以上はCD層についての評価です。また、他のEsoteric SACDタイトルについてはもちろんわかりません。ただし手元にあるこれ含む4枚のEsotericタイトルの音像はどれも同じ傾向かなとは思います。

 

以上、独り言終了。