Good Bye to Audio Fidelity

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US時間2018年5月18日、Marshall Blonsteinが惜別のメッセージをSteve Hoffman経由で掲示板に発表。
これをもってAudio Fidelityは終焉を迎えた。

音質を追求するブティック・レーベルとして、AFは17年間にわたり数々の音源のリマスタリングを手がけ、小ロット生産とはいえ、世界中の音楽ファンに幾多の驚きや発見や音楽を聞く喜びなどを提供してくれた。最近はライセンス取得の難しさを感じさせる流れになっていたが、ここで一区切りとなった。

以下、個人的感想の羅列。

フィジカルメディアが大量には売れない時代になり、大元のレコード会社もかつての黄金時代のタイトルの再発無限ループあるいはデラックスエディション化をいっそう推し進めるようになってきて、AFのような立ち位置がそれほど際立つものではなくなってきたのかな。ハイレゾや「オリジナルマスターテープ使用」がわりと普通になる中、解像度的な意味合いでの音質を売りにするのはなかなか難しい状況だろうし、もちろんAFはDCC時代からマスタリングを売りにもしてきたわけだが、それもけっこうわかりにくい話だろうなと。

それとAFはいろいろとプロダクツの制作面で課題もあったかと思う。
製造の一部で予期せぬ人為的トラブルが起こることも一度ならずあった(たとえば、プレス工場のスタッフがマスタリングをいじるとか、モノラルディスクなのに音の定位がセンターからずれていたとか)。その度に誠実な対応で修正版ディスク交換をしてくれたが、ビジネス的にはどうだったか。

また、パッケージやブックレットのアートワークは、デザインや印刷の質、発色を含め、最後まで二流な印象から脱却できなかったと感じる。

パッケージも、最後までDCC時代のペーパースリーブ(カバー)を継続したが、やや時代遅れ感はあったのでは。そもそもあれは金色のゴールドディスクをアピールするためのものだったはずだが、SACDに切り替えた際、もはやディスクはゴールドではなくなったわけで、その時点であのダイカットのスリーブの役目は終わっていた。

肝心の音の方も、やや迷走した感があった。当初はHDCD仕様だったが、途中でホフマン自身が「ネガティブな影響があるからやめた」とこの仕様を却下。たしかにHDCDのPet SoundsやBandの音は疑問符がつくものだった(個人の感想です)。しかし、HDCDを使わなくなったホフマンに対し、Kevin Grayはその後もHDCDを継続するというちぐはぐさ。やがてSACDに移行したため、この点はうやむやになったが、AFとして方針をより明確に打ち出すことも可能だったのではないか。それができなかったことがやがて当初の購買層に訴求力を失っていく要因のひとつになったような気がする。

SACD移行に関しても、Mofiの後追いという印象が強かった。その後もMofiやAnalogue Productionsといったライバル(?)に対し、発売するタイトルの面でも常に後じんを拝する形になっていった。MofiやAPとは違い、Vinylエディションを発売することができず、レコード人気復興の流れに乗れなかったこともマイナスだったかな。

そんな中、SACDのマルチチャンネル収録は一筋の光というか、差別化と生き残りに繋がる好判断だったはずだが、ただし、マルチチャンネル再生環境は恐らくはAFの購買層においてすら、それほど浸透していなかった。これはSH掲示板のアンケート結果に如実に表れている。となると、結果論だが、ビジネス判断としてはそれほど賢明なものではなかったということになる。(個人的にはこれからマルチチャンネルを楽しもうという段階だったが)。

今、マルチチャンネルのディスクパッケージを見直したら、小さな字で、マルチのマスタリングはBob LudwigとかDoug Saxとか書いてあってちょっと驚いた。また、マルチと言っても何チャンネルなのか、その辺の情報の伝え方含め、もうすこしうまくできたんじゃないかなという思いは残る。

最後に、個人的にAFタイトルで印象に残っているものを挙げるとすると、
Stevie Wonder(最近改めて比較して再評価)とDylan、Ten Years After、CS&N(最近再評価)はよかった。Deep Purpleもまあよかったかな。SACDではスティーヴがマスタリング担当したLoggins&Messinaはよい。KGが担当したタイトルは昔のMofi銀盤のほうがいいかな。終盤は安定感が増し、上の写真のタイトルはどれも良好。The DoorsはSPとMHは、例のトラブルで台無し。のちに出たベスト(SACD)はオッケー。こちらは1曲をホフマン自身がリミックスしているというおまけもあった。

ビジネスとは難しいもの。そんな中17年間存続していたということ自体称賛に値するし、個人的にはAFやSHのお陰でまったく新しい音楽の楽しみ方を体得できたわけで、その意味でとても感謝している。今は、しょうがないかなという気持ちと残念な気持ちと、スティーヴの今後の仕事は大丈夫なのかなという気持ち、それから、改めてAFのディスクを聞き直そうかなという気持ちが併存の状態なり。