Doors : The End ドアーズ 曲の長さが違う

熱心なファンの間では既知のことかもしれないが、個人的に今更ながら以下のことに気づいたので記しておきたい。

●疑問発生
ファーストアルバム収録の“Light My Fire”の曲長が、LPのジャケ裏に印刷されている時間(6分50秒)より長い(7分5秒)のを知ったのは、昨年のボックスセット、Perceptionでだった。添付の解説によれば2003年にアメリカはブリガムヤング大学のマイケル・ヒックス教授が「LP、CD版の同曲はシングル盤より半音高い」ことを指摘したのだとか。

エレクトラのスタジオでミックスダウンする際にテレコの速度が(リールの最後の方で)正確でなかった、というのがその理由らしい。だが、そうだとすると新たな疑問が生じてくる。

すなわち、「ではB面はどうなのか?」ということだ。

●“The End”の長さ
各種CDを確認したところ次のようになった(CDトラックの分数表示と、曲の終わりの無音部分を除く実際の演奏時間を調べた。iTunesに取り込むとよくわかる)。

USオリジナル盤LP裏ジャケ表記 11:35
旧盤CD(20P2-2344) 11:43(実質11:42 ただし最後の最後、フェイドアウトが早いのか、タンバリンの微かな音が聞き取れなかった。それが消されていなければ11:43くらいか)
Perception CD 11:45(実質11:40~41・これの裏ジャケ表記は11:39)
リミックスCD(2007年紙ジャケ) 11:42(実質11:35~36)

旧盤とリミックス盤を比較すると、CDプレーヤーに表示される分数はほぼ同じだが、実質的な演奏時間を比較すると6~8秒の開きがある。

●更に検証、そして結論
例えば、途中の“lost in a Roman”は旧盤では2:54から、リミックス盤では2:52から始まる。また、“the killer awake before dawn”は旧盤では6:28から、リミックス盤では6:23頃から始まる。一番最後の“This is the eeeeeeend”の“e”の位置を比較すると、旧盤は11:30過ぎ、リミックス盤は11:22となる。最初はその差はわずかだが、曲の後半に進むに連れて差が大きくなっていく。

この結果から、“The End”もスピードが修正されていると考えてよさそうだ。(旧盤を基準にするなら、リミックス盤が速いとも言えるが)やはりリミックス盤のスピードが適切で、旧盤は遅かったのだと考えるのが妥当だろう。また、リミックスCDではオリジナル盤LP表記通りの曲の長さに合わせ込んでいるのがうかがえる。

●評価
もちろん、曲の尺がどうであれ最新の紙ジャケ盤はそもそも「リミックス」なのだから、修正したこと自体は別にとやかく言われることではないだろう(好き嫌いの問題はあるが)。というよりも、本来の再生スピードになったことは資料的価値として大いに評価できる。

ただし、私が知る限り「スピード修正」の件で語られているのは“Light My Fire”についてのみだ。Perception添付の解説(ブルース・ボトニック筆)でも“The End”にはまったく触れられていない。これは果たしてどういうわけなのだろう?

●おまけ
また、件の“Light My Fire”だが、リミックスCDでピッチを上げてある(=テープ再生スピードをアップした)ものの、結局オリジナル盤表記の「6:50」には至っていない。となると、そもそもその表記自体が正確でなかったのではないかとも思えてくる。なにせレコード盤のレーベルでは、驚くなかれ、「6:30」となっているのだから(もちろん単なる誤植かもしれないが)。

(参考)
Light My Fire
USオリジナル盤LP裏ジャケ表記 6:50
USオリジナル盤LPレーベル表記 6:30
旧盤CD 7:07(実質7:05)
Perception CD 7:08(実質7:04・裏ジャケ表記は6:57)
リミックスCD 7:00(実質6:55)

以上のことから何か教訓めいたものを得られるとすれば、それは「レコードもCDも、ジャケに記載されていることを鵜呑みにするな」ということに尽きる――そしてこれは20年以上前に手にしたあの名著、『ビートルズ日本版ディスコグラフィー』(1986年刊)にて著者のピーター・インガム氏が述べていることにも重なる。そう、つまるところ、己の“耳こそがすべて”であり、そして“知覚の扉を覆う思い込みを払拭すれば真実が姿を現す”、のだよ。