The Yellow Monkey on vinyl: Sicks and Punch Drunkard

まあ多分イエモンのレコ盤の音質について何か感想というか、レビュー的なことを書いている人なんて皆無だと思われるわけだが、とりあえず。

 

なんというかなぁ…、遠い記憶の中にあるイエモン、あんまり掘り起こしたくないくらい昔の記憶だな。で、CDのマスタリングはTed Jensenだったわけで、それはどんなもんだったかというと、まぁ聞いてみての通りなわけで、言ってしまうとコンプかけてぐしゃっと潰してペラペラざらざらな聴感、ただしだからといって密度感が完全に消失しているわけではないという、まそんなあの時代にあった音作りというかマスタリングの方向だったかなという。そんな聴覚的記憶なわけです。それらのCDは手放してはいないがすぐには出てこないし、探す気もない、というくらいな位置付け。自分の中で。そんな音の記憶だから当然ながらというかやはりこのvinyl editionをそもそも買う意味があるのかどうかというところから始まって、かなり躊躇。ましかし、”淡い心だって言ってたよ”はアナログで所有しておいてもいいかな、という1%くらいの購買意欲に従って、Sicksをゲット。

 

いやー、なんだこれは。一音目から逆の意味で度肝抜かれましたよ。あれだ、吉井さんの39108、あのVinylを初めて聴いた時の驚き、それの10倍くらいな感じ。レスコンプ、フルレンジのこのマスタリング、素晴らしいの一言。今回マスタリングは、Warner Music MasteringのKatsutoshi Kitamura氏。(発売はSony MusicだがマスタリングはWarner?)

 

今回2枚組仕様なわけだが、その時点で音質にもう少しプラスの期待が持てる可能性があったことに気づいておいてしかるべきだった。曲数と曲長からしてAB2面ではキツすぎる長さだが、4面となるとそれが真逆。片面あたり11〜15分程度の収録時間という夢の世界。そして無駄に45回転にしなかったのもあくまで正しい。ホフマン掲示板含め誰も指摘していないことだ(と思う)が、以前も書いたが、45回転の場合、最外周の1曲目と最内周の曲の音質の違いが激しすぎる。いや最内周の音質もいいといえばいいのだが、最外周からの劣化度合いの落ち込みが大きいため、聴いていて、その変化が気になるというか気障りに感じる。その劣化速度・度合いが気になって、没入感が阻害される。その点今回は33.3333回転なので、その劣化具合が聴覚上あくまで緩やかというか、ほぼ気にならない。これら条件が全てプラスの方向に作用し、全体として完全に成功している。それがこの盤。

 

この流れで当然の如く次作、Punch Drunkardもゲット。

 

この2作、1曲ごとの聴きどころをここで挙げていっても意味がないだろうから、最小限のことを書いておく。ひとつ、いろいろな意味で頂点はPunch Drunkardの”Burn”だったのだなと個人的に得心。

 

この曲が収録されている面は3曲のみの構成で(そのうち1曲は”Sea”)、収録時間は11分程度。だからカッティングに余裕ありまくり。溝の間隔も好きなだけ取れるから音量が十分に確保できるし、ということは周波数帯ごとの大きな妥協も強いられない。そして過大なコンプはかけていない。だから音が伸び伸び、深々、きらきら、生生。高音の伸び、低音の深みが素晴らしい。音の分離が素晴らしいので、各パートの楽器の音、吉井さんのヴォイシング、すべてのクラリティが(CD比で)圧倒的に向上。おかげで骨太なハードロック感が全開。CDよりもロックバンド感が強烈に感じられる。

 

そしてこの2枚組LPを聴くと、そんなロックバンドとしての音の到達点が”Burn”だったのだとはっきりわかる。歌詞、曲、編曲、演奏、歌唱、アレンジ、ここがひとつの完成形。そして今回のD面最後、狂気じみた”Love Love Show”を聴くと、その到達点、頂点、の後の行き場を失って過剰放出状態となった(バンドとしての)アドレナリンがここに無法地帯におけるが如く飛散しているのだとわかる。だからあそこで一度、完結というか完成というか、到達してしまった、そこからの難しさが次回作以降、ということだったんだな...、かな? と思う。個人的にもとりあえず「8」は聴いたものの、その先は記憶にない。

 

”Love Love Show”について言うと、より耳馴染んでいるシングルヴァージョンをそのまま入れてあったなら、今それをアナログで聴けたのにな、と思う部分も少しある。可能性はかなり低いだろうが、Mother of ... がアナログ盤で発売されたらね。そうしたら”Love Love Show”のみならず、名曲中の名曲、”Nai”もアナログで聴けるということになる。