(この一件、Yahoo!トップにまで出ちゃってますね~)
去る9月7日決勝のF1ベルギーGPではマクラーレンのルイス・ハミルトンがトップでチェッカードフラッグを受けながら、その後レースタイムに25秒加算のペナルティを課され、3位に降格となった。
問題は44周レースの42周目、雨の中、フェラーリのキミ・ライコネンとトップ争いをしている最中、最後のシケインをショートカットしたこと。そしてその後ホームストレートで一旦はキミを先行させたものの、すぐさまスリップストリームにつき、1コーナーで追い越したこと。この一連の流れが問題視され、結果、25秒加算となった。
しかしながらルイスはルールに決められている通り、シケインショートカット後、順位を一旦明け渡している。そして1コーナーでのブレーキングでキミをかわした。では、これのどこが悪かったのか?
要因はこんなところだろうか。
1・ルイスは故意にシケインをショートカットした(のでは?)。
2・それによる加速のアドバンテージを維持したまま、形だけキミに一旦先行させた。
3・直後にスリップについたが、シケインショートカットがなければあの位置でスリップには入れなかったはず。
4・スリップにつくというアドバンテージを生かし、1コーナーで追い越しをした。
5・従って、シケインショートカットによるアドバンテージを維持したまま、それを生かしてルイスはトップを奪った。
結果、レーススチュワードのレース後の裁定により、ドライブスルーペナルティに該当すると判断された。レース後の裁定なので、ドライブスルーにより失うタイムに相当する25秒のペナルティが課された。
ではこのペナルティの是非をいろいろと考えてみたい。
1・故意にシケインショートカットしたのかどうかだが、ここで問題になるのは、ルイスが「ショートカットした方が有利になるからショートカットしよう」という意図でショートカットしたのかどうか、ということだろう。
あの時、シケイン進入前に既にルイスは完全にキミに追いついていた。そしてマシンが不安定なキミはルイスより早めにブレーキング。結果、シケインではアウトのルイスがやや前に出ている。100メートル競走のゴールで言えば、ルイスの勝ち、といった状況。ただしイン側のキミの方がターンインした際はキミが前に出た。と、ここでキミは縁石いっぱいにはらんだのでターンインしたルイスのマシンは行き場がなくなった。接触ギリギリの状況。その瞬間、ルイスはステアリングをサッと左に切り、シケインの外側にマシンを導く。アスファルトと芝生のぎりぎりのところだった。
ルイスはターンインしているのだから、最初からショートカットを狙っていたわけではない。接触するかもしれない最後の瞬間にショートカットを選択した、ということだろう。もちろんその結果としてホームストレートではルイスがキミの前になったのだから結果的にアドバンテージは手にした。
2・形だけキミに先行させたのは確かにその通りかも。だが、ルール通りのことをやったとも言える。
3・ショートカットがなければスリップに入れなかったかどうかは怪しいのでは。ルイスはシケインでキミに並んでいたのだから、そのままキミについていけば直線たちあがりですぐにスリップに入った可能性もある。シケインの時点でマシンの勢いに差があるのは明らかだったのだから。42周目スタート時点での2秒差がシケインではほぼゼロだった。
4・明らかに車速が落ちているあの状況の中、スリップがどのくらいのアドバンテージになるのかは専門的なデータがないので分からないが、ルイスがブレーキングでキミを抜いたのは確か。キミは1コーナー進入時のブレーキングが早かった。ルイスがキミのスリップに入っていなくとも、キミを抜けた可能性は高い。
5・シケインショートカットのアドバンテージは、ルールに決められている通りの行動をしたことよって少なくとも“形式上は”放棄されている。また、キミが抜かれたのはキミのブレーキングが早かったためでもある。いずれにせよ、あの状況ではキミが抜かれるのは時間の問題だったように見えた。
●すべては結果論
今回のルイスのミスは、ホームストレートで一旦順位を譲ったあと、すぐにキミのスリップに入ったことだ。そんなことをしなくても勝てたのに、だ。あの行為は多くの人が「ズルい」と感じたに違いない。(だがフェラーリの誰かがあれと同じことをやったらどう思うのだろう?)
ルイスは43周目1コーナーで仕掛けなくともいずれにせよ楽々トップを奪えたはず。なので、勝機をもう少しだけ待てば良かった。
また、どのみち自分が優勢だったのだから、シケインでもう少し我慢してキミについていけば良かった、とも言える。ただしこの点に関しては、ルイス自身が「キミから押し出された」という認識なのでしょうがない。先述の通り、確かにシケインでのあの瞬間、ルイスが行き場を失っていたようにも見える。シケインショートカットは接触回避行動とも解釈できる。
また、「ああした走り方を許容すれば、今後シケインショートカットを利用した追い越しをしてもいいことになる」という考え方もある。それもごもっともだ。
だが、一つ思うのは、なぜあのシケインはショートカットをしたら前車の前に出られる作りになっているのか、ということだ。例えばコース復帰の際に横切らなければならない部分のみ、ある程度の幅をグラベルにするとか芝生にするとか、縁石を高くするとか(危険か)、バンプを作っておくとか、ポールを立てておくとかして、勢いを保ったままではコース復帰できないようにしておけばいいのでは? スパのあそこは高速シケインでもないわけだから、そういう形にしても安全性は保たれるはず。ショートカットしたら即そのマシンが不利になる状況をそこに作っておけばいいのでは、と思う。
そういえば昔のバスストップシケインにはタイムペナルティがあった。シケイン進入で停まりきれず直進したマシンは即その場に停止させられ、タイムペナルティが課された。(10秒間だったかな)
また、付け加えるなら、キミもまたクラッシュ直前のブランシモン(多分)でエスケープゾーンを大胆に利用していたのだから、やっていることはルイスと同じ。ゆえにルイスであるがゆえに、あそこでショートカットした、などとは言えない。
2008 Belgian Grand PrixのDocument 49を見ると、Offence(違反)の欄には、Sporting RegulationsのArticle30.3(a)に違反とある。30.3(a)は、ドライバーは常にトラックのみを使うこと。そして常にドライビング行為に関するthe Codeの条項を遵守すること、というもの。the Codeなるものの原文が見つからないのでなんとも言えないが、恐らくそこに「シケインをショートカットし、前車との位置関係を元に戻した直後、スリップに入ってはいけない」という文言はないはず。なのでFactsの部分が「シケインをカットし、アドバンテージを手にした」という表現になったのだろう(そのアドバンテージは形式上放棄しているが)。
ある意味、今回のペナルティはスチュワードの恣意的な判断ではある。だが、レギュレーションに明文化されていない部分をどう判断するかが彼らの仕事の一部でもある。彼らはレースディレクターから問題提起されたら、それに対応し、判断しなければならない。その結果が今回は25秒加算だったということだ。
言うなれば、今回はレギュレーションの穴をつくマシン開発と同じようなことがコース上でも起こった、ということ。ルイスはあの立場ではあの瞬間におけるルールの範囲内で許された行為をし、スチュワードは自分が果たすべき仕事をし、そしてこうなった、と。ルイスがああした走行をしたことによって、レギュレーションの文言上の曖昧さというか、実状に即していない部分が明らかになったとも言える。そして全力で走っているドライバーからしてみれば、そんな曖昧な領域を侵さないように気をつけながら走る、などという意識などなくても当然ではないだろうか。
なので、別にどちらが良いとか悪いとかいうことではない(あえて言えば、レース中、マクラーレンに対するレースディレクターのC・ホワイティングの曖昧な言動は引っかかる所)。こうしたいわば“いたちごっこ”のような状況はこれからも繰り返されるだろうし、それに、9月になるとタイトル争いに外的要因が介入してくるのは毎年のこと。それもまたF1、というわけだ。
追記:今日のf1-live.com掲載のOpinionには、「果敢に追い越しを仕掛ける側にペナルティが課される状況では、あえて追い越しなどしない方が賢い」「我々はそういうレースを望んでいるのか?」とあった。