Frozen: Let It Go 歌詞比較  Japanese ver. against English ver.

世間から5周遅れくらいの話題で恐縮。

アナと雪の女王』挿入歌の一つ、“Let It Go”の歌詞についてふと思ったことをメモ。

松たか子が凄まじい歌唱能力を発揮している日本語版は本当に素晴らしいし、何度聞いてもまた聞きたくなる。
なんだけれども、あらすじを確認するまで今ひとつこのビデオの中のエルサの心理状況があいまいに感じたので、オリジナルというか英語版を確認してみた。

すると……

英語版では、1回聞いただけでエルサの物語がけっこう明確に分かった。
自己と他己、うちとそと、過去と今これから、の区別が非常に明瞭な歌詞。
決別の意志が明確で、強さ、凛々しさが際立つドライな仕上がり。

歌詞で言えば、前半の
Be the good girl you always have to be
Don't let them know
というこれまでのルールから、
Well, now they know
という、自分に突きつけられたあからさまな現実を踏まえ、
Let it go
と自己を抑制するルールから我が身を解放し、
I'm never going back
The past is in the past
That perfect girl is gone
とこれでもかというくらいの決別の言葉を放ちまくり、
Here I stand and here I'll stay
という境地に立つわけである。


対して日本語版では、内包されている自己への問いかけ、そこからの変容に向けた勇気、励まし、自己肯定といったニュアンスが強く、情緒的でウェットな仕上がり。

歌詞で言えば
「風が心にささやくの、このままじゃダメなんだと」
と内向きの自己批判から始まる。
(英詞では風はささやくではなくhowling=うなる)
そして
「戸惑い傷付き悩んでた それももうやめよう」
と、変化のための客観的な指標が示されないまま、決意表明となる。
そうするとどうしても
「だってもう自由よ なんでもできる」
の根拠が弱く感じられてしまう。

サビの
「ありのままの自分になるの」
は英詞のLet it goというよりは、Let it beのニュアンスか。
その場合、itの指し示すものが変わってくるわけで、そしてそれが正に日本語版と英語版の違いとも言える。

「どこまでやれるか自分を試したいの」
「そうよ変わるのよ」
というのも英詞の客観的に自分の能力の限界を試そうという話とは異なり、願望のニュアンスが強い。
また、最初に変化のきっかけが明示されていないためか、「ありのままの自分」と「変わるのよ私」がどうしても相反したニュアンスを醸し出してしまう(ように感じる)。

後半の
「これでいいの 自分を好きになって」
「これでいいの 自分信じて」
は字面の上では英詞にはないストーリー。

最後、
「光あびながら歩きだそう」
は英詞の“Here I stand and here I'll stay”という「私はここで自立する」という話からはちょっと距離があるか。

こうしたウェットな情緒性が強いため(私にはそう感じるというだけのことだが)、最後のセリフ
「少しも寒くないわ」
の意味が分かりずらく思える。
英詞の
“Let the storm rage on”
“The cold never bothered me anyway”
の突き放したような強さ、シニカルさがここにはうかがえない。

……といろいろ書いたものの、細かいことはどれも日英比較したらの話。
訳詞としては非常に優れていると思うし、完成までには相当な苦労もあったのではと思う。
歌詞も歌唱も本当に高いレベル。大きな話題となるのも必然だった。